旅の記録
「自分たちが何が欲しいか」が絶対的に重要。必要以上のマーケティングをしない
Kalev KülaaseさんはLike a Localという、地元の人に街をガイドしてもらうマッチングサービスのベンチャーを仲間と立ち上げた。
私自身、旅先で『地元の人から街の面白さをガイドしてもらえるサービスがあるといいのになぁ』『トランジットの待ち時間に街に繰り出し、美味しい一杯を地元っこと共にしたい!』とつぶやき続けてきたので、このサービスを知った時は飛びついた。
どうやってビジネスを大きくしたのか?という私の質問に意外な答えが返ってきた。
I do not depend on marketing too much. Even if I want to do so, the test market is too small. My axis is always what I want, not to make products to sell.
僕たちはあまりマーケティングに頼らないんだ。マーケティングをしたくても、身近にあるテストマーケットが小さすぎるしね。軸はいつも、自分たちは何が欲しいかであって、売れる商品を作ることではないんだ。
私のハートを撃ち抜き飛びつかせたサービスは、マーケティングを信じない主義の彼らから生まれたのだ!
世界中の優秀なビジネスマンが血眼で「きっとこんな人が買ってくれます!」と机上のwantを練って製品化しているのだけれど、私たちの食指はイマイチ動かない。物が溢れる時代に、選ばれるサービスを作るためには、自分自身の強いwant ! を追求することが重要だということが、今回確信に変わった。
オープンでいることが最大の強さ
エストニアではスタートアップアイデアを披露しブラッシュアップするイベントが約週一回のペースで行われている。ここエストニアでのビジネスピッチイベントはとてもオープンだ。日本のように、“秘密保持の契約書”などにサインする必要はまずない。驚いたことにテレビ番組などでもビジネスピッチをする機会があるのだという。
アイデアを人に盗まれる、という発想はないのか。どれだけ性善説を信じるお人好しなのか?それとも他人に真似ができないと高を括っているのか?
悶々とする私にビジネスピッチを企画するGeorgeはこう語った。
We are going to publish the ideas to the public as much as possible. Even if we hold in, we can not meet investors, nor good suggestions for improvement.
僕らはアイデアは極力公に出すんだ。抱え込んでいても、改善のきっかけを作る意見にも、技術的な革新を加速させる仲間にも、投資家たちにも出会えないからね。
一本取られた気分だ。彼らの考え方は明らかに強いサービス、強いチームを生み出す確率を高めている。政府のIT政策でも完全な状態ではなく、実験段階でリリースすることが多いという。
社会全体が失敗の誹謗中傷を恐れず最終的な勝ちを狙いにいっているではないか。
人間らしい生き方をするために腕一本で食べていく
Webデザインやプログラミング技術を持つ30代のKalelさんに1つの疑問をぶつけてみた。
「あなたの父親、母親世代の人たちはどんな仕事をし、今の若者たちをどう見ているのだろうか。」
明らかに彼の顔が曇った。
「父親、母親世代はソ連統治時代だったから…」
覚えている人たちのソ連に対する感情は憎しみに近いといって良いだろう。父親、母親世代の良い仕事と言えば、タクシードライバーやウェイター、土木工事の建設工くらいだったという。ソ連のことを話すとご飯が美味しくなくなるとでもいうように、彼は苦笑いをしながら別の話題へと話をそらした。
ここからは私の憶測に過ぎないけれど、今の現役世代は新しい国と仕事づくりを始めるときに、親世代が苦しんだ体制や組織とは違うもので食べていこうとしたのではないか。強いものに喰い物にされないために、最強のチームを作って世界に繰り出し戦っていくことを、本能的に選んだのではないか。
エネルギー資源も観光資源も乏しいこの国で、食べて行く覚悟と独立精神を感じた瞬間だった。