旅の記録~1日目

旅の記録~1日目

幡豆への移動は新幹線・JRを乗り継ぎ蒲郡から名鉄蒲郡線に乗り換え。
二両編成の蒲郡線はワンマン運転で主要駅を除き一番前のドアしか開閉しない。人目を気にせず風景を見たくて、貸し切り状態の二両目に陣取った。

でも出発してしばらくの間、窓の外には家また家。本当に期待したようないい感じの場所につくんだろうかとちょっと不安になる。

目的地の二駅前あたりからやっと海が見え始めた。いよいよ来たぞ!と気持ちが上がり始める。

突き抜けてる仲間たち

目的地西幡豆の駅から最初に向かったのは藤野が共同で代表を務めるwabisabiのオフィス。古民家を改修して使っていて、とてもいい感じ。

駅まで迎えに来てくれたのはwabisabiのもうひとりの代表鈴木達朗さん。穏やかな雰囲気でこっちもすっかりくつろいだ気持ちになる。
車内ではじめましての自己紹介。
仕事で沖縄方面の取引があることを伝えると、鈴木さんから「高校生の時、夏休みのあいだ中沖縄に行っていたことがある」というびっくりなエピソードが飛び出した。
「現地で知り合いになったおじさんちが久高島にあって泊めてもらった。その頃はまだパワースポットって話題になったりしてなかったんですけどね。」
藤野がパートナーに選んだ人ってどんな人だろうと思ってたけど、これはつわものだ。

オフィスで出迎えてくださったのは、wabisabiとスペースをシェアしている映像クリエーターの松澤聰さん。松澤さんと達朗さんはその昔同じシェアハウスに住むシェアメイトだったそう。月1万で借りた家を自分たちでDIYし、一番多いときはなんと5人で住んでいた。その後ヨーロッパを旅し、イスラエルで7年も過ごした。イスラエルでは現地の大学で メディアや映像制作の勉強をしてきたのだという。
実は松澤さんのことは、幡豆に行く予習で観たyoutubeの画像でお姿を拝見していた。ファンキーな人だなーと思っていたのだけれど、筋金入りだった!
でもそれだけじゃなくて、ちゃんと自分なりの問題意識をもって発信活動に取り組んでいるってことはおいおい分かる。

左が鈴木さん、右が松澤さん。二人とも海外の旅の経験が豊富。後で藤野と話していたら、彼らのことを「ヒッピーみたいな若い奴ら」って言ってたけど、なるほど確かにそういう雰囲気あるかも。

そんな二人と藤野の出会いのきっかけとなったのが、寺部海岸にあるcafé ocean。もともと一色町や西尾市でサーフショップを営んでいたオーナーが、2010年に今の場所でトレーラーハウス1軒から始めたcaféだ。

達朗さんはoceanの立ち上げメンバー。藤野はoceanにお客さんとして通っていた。二人はお店のスタッフとお客さんという関係が続き、海に一緒に出たりしていたそう。

その後そろそろ独立してやりたいと考え始めた達朗さんが藤野にいろいろ話をきいているうちに、2016年、一緒に広告・イベント企画・民泊運営など幡豆の地域活性に取り組む株式会社 wabisabiを共同創業することになった。

達朗さんを介して藤野と知り合うことになった松澤さんいわく、藤野は「いい兄貴」のような存在だそう。
達朗さんや松澤さんたちが「あんなことしたい」「こんなことしたい」とビジョンを語ると、実現への道筋をつけてくれるのが藤野。そばで見ていて学ばなければいけないところがたくさんあると思っているし、本人も盗めと背中で語っている気がする、とのこと。
Hazuforniaで藤野がどんな立ち位置なのかなぁと想像をめぐらしていたのだけれど、「兄貴」と聞いてなるほどね、と納得した。

Hazuforniaは文化

そんな達朗さんと松澤さんに「なんで幡豆なんでしょう?」という問いを向けてみた。

「幡豆には海も山もあるし、建物や暮らしなど昔からのものも残っている。けれども観光の目的地にはなっていない。ないということはチャンス。それをどう楽しみ、良さを伝えていくか。」

「特に外国人観光客を考えたとき、海外経験のある自分たちだからできることがある。愛知には喫茶店文化があるので、幡豆にも雰囲気のいいカフェもたくさんある。でもそれだけではだめで、アクティビティや宿、ガイド、言葉の対応含めた地元の受け入れ態勢を整えて、良い滞在経験をしてもらいたい。」

さらにこれからの展開に話が及ぶ。

「ただ訪れるだけじゃ足りない。そこに学びが必要だと思う。Hazuforniaというのは単なる地域名ではなく、Hazuforniaという文化を作りたいと思っている。」

地域活性化のことを「文化を作る」って表現する人には初めて会った。
でも言われてみれば確かにそうだよな。自分たちがその場所でどう暮らすかっていうスタイルはまさに文化だ。
ちゃんとよく考えられていて、Hazuforniaをますます応援したくなる。

寺部海岸のビーチ。海遊びを楽しむ人もいれば、SUPやシーカヤックの拠点にもなっている。近くにサーフショップ、カフェ、ギャラリーなど幡豆内のいい感じのスポットが集まっていて、Hazuforniaっぽさを感じられる場所。

幡豆でアートギャラリー!?

達朗さん・松澤さんのおすすめスポットを伺ってwabisabiを出る。おすすめの酵素玄米Laboさんで昼食をいただき、ビーチ巡り、穴弘法のある見影山をサイクリング。

身影山から望む町と海

その後これもおすすめされたart gallery sightsへ。海岸沿いの道を折れてちょっと坂を上がると小さな看板が出ている。
敷地の奥に進むと外壁全部が木目のきれいな建物が現れた。

来てみたはいいけど、全然分からない作品の展示だったらどうしようかとちょっとためらう。でもせっかく来たし、と思い切って中へ。
オーナーの渡辺さんが迎えてくれた。

左がsightsのオーナー渡辺さん。2階のカフェ、モリトネのオーナーさんと。「一人でやるより心強いでしょ」とは渡辺さんの言。

カフェモリトネ店内

聞くとなんとこのsightsは8/19にオープンしたばかり。初めての展示としてガラスアーティストの作品が並べられていた。
白を基調としたギャラリー内は広すぎず、かといってお店の中央にも展示棚が設置されていてどこにいても他の人の視線にさらされるという環境でもない。特に美術品を見る目があるわけではない自分でも、マイペースで作品を鑑賞できて心地よい空間だなと感じた。

しかしこの場所でアートギャラリー開くってすごいなと思って率直に聞いてみると、ご本人も「清水の舞台から飛び降りました」とのこと。

何かが違う幡豆の海

それでも始めちゃうくらいだからよっぽど好きなんだろうと思い伺ってみると、果たしてずっとギャラリーはやりたい、海が見える素敵な空間でお客様に好きな作品に触れてもらいたいと思っていらしたそう。

だから不動産屋さんにも海が見える場所という条件で探してもらい、候補の中で一番気に入った今の場所にギャラリーを開くことに決めた。

2階から望む海

でも実は渡辺さんは同じ西尾市ご出身で、その家からも海が見えていたと聞いて驚いた。なんでも、幡豆の海は違う、とのこと。同じ海でも幡豆の海にはやっぱり何かあるんだな。

ちなみに渡辺さんが買った土地を更地にしてからオープンまで4年かかった。なかなか工事が始まらない様子に、たまに草刈りに訪れる渡辺さんに近所の人が心配して声をかけてくれることもあったという。幡豆はなにか始めようとする人に優しい土地柄みたいだ。
オープンしてからも、ご近所のcafé oceanや酵素玄米LABOからお客さんを紹介してくださることもあるそう。

幡豆にはいい気が流れている

この日も大阪で講演があった藤野とは夕食から合流した。会ってしばらくは空白の時間を埋めるべく、お互いのプロフィールのアップデートを行う。その流れで幡豆に移住したきっかけを聞いてみる。

「体がこれ以上東京は無理と言っていた。高校の時も満員電車が嫌で、下ろされた中央線に再度乗れなくてもういいやって学校行くのやめたことが三日続けてあったくらい。」

高校卒後20年にして初めて聞くエピソード。

「朝地下鉄に乗って駅直結のオフィスにそのまま上がって、企画の仕事だから1日中外出もしないで夜遅くまで働いて、家に帰る。体が全然太陽を浴びてなかった。」

うーんそれはたしかに続けられなさそう。
じゃあ幡豆は?達朗さんも、松澤さんも、渡辺さんも、みんな出身は幡豆ではない。それだけ人を惹きつける幡豆はどこがそんなにいいんだろう?

「うまく言えないけど、ここは気がいいとしか言いようがない。帰ってくると緩むんだよねぇ。説明になってないね。笑」

いや、でも1日回ってみて、感覚的に分かった。今日会ったのもみんな幡豆の心地よさに魅せられて居着いた人たちばっかり。その集まってきた人自身が今度は幡豆の魅力になってますます人を呼び込んでいきそう。

自由の裏にあった転機

そういう場所だからか、幡豆に行ってからの藤野はとっても自由で自分らしそうだよね。

「自分が自由にこだわる理由づけも最近変わってきたと思う。子どもの頃どうしても自分のコントロールが及ばないという体験をしたんだけれどそれをover comeしようとしているという説明付けは嫌いになってきたんだよね。35歳くらいから弱さ・寂しさも抱えたままの自分が自分であるとacceptできるようになった。押さえつけ、克服しようとするんじゃない。受け入れる。それで楽しく逃げるっていうのが最近のテーマ。」

確か藤野がブログを始めて、SNS上であっちこっち顔出すようになったなという印象を持ち始めたのがその頃だった。なるほど、本人の中でそういう変化があったんだ。